大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和53年(ネ)1627号 判決

控訴人 株式会社 高木写真製版所

右代表者代表取締役 高木小たる

右訴訟代理人弁護士 芹澤力雄

被控訴人 ツツイ美術印刷株式会社

右代表者代表取締役 筒井尚亮

右訴訟代理人弁護士 杉原正芳

同 高橋剛

主文

一  本件控訴(主たる請求につき当審における拡張分を含む)を棄却する。

二  控訴人と被控訴人間において原判決別紙物件目録記載の建物中同別紙図面一階及び二階の斜線部分に対する昭和五三年一一月二九日以降の賃料は、月額一一万二〇〇〇円であることを確認する。

控訴人の予備的請求中その余の請求を棄却する。

三  控訴費用はこれを一〇分し、その八を被控訴人の負担とし、その余を控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は(従来の請求を拡張し)「原判決中控訴人敗訴部分を取消す。被控訴人は控訴人に対し原判決別紙物件目録記載の建物中同別紙図面一階及び二階の斜線部分(以下本件建物部分という)を明渡し、かつ昭和五〇年二月一日以降同五三年一一月二八日まで月額五万六〇〇〇円、同月二九日以降右明渡しずみに至るまで月額一九万八〇〇〇円の各割合による金員を支払え。右請求が認められないときは予備的に、控訴人が被控訴人に賃貸している本件建物部分に対する昭和五三年一一月二九日以降の賃料は月額一九万八〇〇〇円であることを確認する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は「本件控訴(当審で拡張した請求を含む)を棄却する。予備的請求を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠関係は、次のとおり訂正、附加する外は、原判決の事実摘示と同一であるからこれを引用する。

一、原判決四枚目表三行目の「(三)管理費」を削り「一万四〇〇〇」を「五万六〇〇〇円」と、同五行目の「(四)」を「(三)」と各訂正し、同九行目の「及び管理費」を削り、五枚目表二行目の「明渡」から同五行目までを次のとおり改める。

「昭和五〇年七月二八日まで毎月五万六〇〇〇円の割合による延滞賃料、同月二九日以降同五三年一一月二八日まで毎月右賃料相当額の損害金、同月二九日以降右明渡しずみに至るまで毎月賃料相当額一九万八〇〇〇円の割合による損害金の支払を求める。」

原判決五枚目裏三行目、七枚目表四行目、同裏二行目の各「管理費」を削る。

二、控訴人の予備的請求原因として次を附加する。

(一)  本件建物の敷地の価格、本件建物に対する租税及び近隣建物の賃料の各上昇ならびに一般物価の昂騰などを考えると、本件建物部分の従来の賃料は昭和五三年一一月現在において不相当となった。そして本件建物部分に対する賃料は昭和五三年一一月二九日現在において月額一九万八〇〇〇円(三・三平方メートル当り八〇〇〇円)をもって相当とする。

(二)  そこで控訴人は被控訴人に対し、右同日付準備書面をもって同日以降の賃料を月額一九万八〇〇〇円に増額する旨の意思表示をした。

(三)  よって控訴人は本件建物部分に対する昭和五三年一一月二九日以降の賃料が月額一九万八〇〇〇円であることの確認を求める。

三、被控訴人の答弁として次を附加する。

右控訴人主張のうち(一)は否認し、(二)は認める。

四、《証拠関係省略》

理由

一  当裁判所も原審と同様本件建物部分の明渡請求は理由なく、当審において拡張した請求を含め右に附帯する損害金の請求及び未払賃料及び未払の電気、ガス、水道料金の請求もまた理由なくいずれも棄却すべきものと判断する。その理由は原判決の理由(原判決一二枚目表二行目冒頭から同一四枚目表四行目まで)と同一である(但し、原判決一二枚目表二行目同九行目同裏七行目一三枚目裏三行目、一四枚目表二行目から三行目にかけての各「管理費」及び一二枚目表末行の「前記」以下同裏初行の「からか」までを削る)から、その説示を引用する。

二  よって、次に予備的請求について判断する。

(1)  本件建物部分の賃料は契約当初月額三万円であったところ、昭和四六年一月賃貸部分を従来一階七坪、二階四・五坪であったのを一階一三坪、二階一一・七五坪に増加するとともに、月額四万二〇〇〇円に増額されたこと及びさらに当事者双方の合意により昭和四九年九月以降は月額五万六〇〇〇円となったことは、前述のとおりである。

(2)  控訴人が昭和五三年一一月二九日被控訴人に対し、本件建物部分の賃料増額の意思表示をしたことは当事者間に争いがない。そこで以下右賃料増額請求の当否につき検討する。

《証拠省略》によれば、本件建物は国鉄山手線及び中央線神田駅西方約三〇〇メートルから五五〇メートルの範囲に形成された住宅、軽工業所、店舗の混在する地域に位置し、昭和二九年六月建築された木造亜鉛葺二階建鉄筋コンクリート地下付事務所兼倉庫であるところ、附近には本件建物同様木造二階建の建物もみられるが、鉄筋コンクリート七階ないし九階建の店舗兼事務所用ビルが建設されており、今後中高層ビル街に移行しビジネス街として発展するものと予想されること、及び近隣地域の建物の賃料は昭和四六年から同五三年までの間に増額されていることが認められ、右事実によると、本件建物の利用価値及び近隣建物の賃料は上昇し、昭和五三年一一月二九日現在本件建物部分の賃料は不相当となったものと推認することができる。

よって同日現在における本件建物部分の賃料の適正額につき検討するに、前記鑑定人の鑑定結果は賃料事例比較法により得られた結果を採用し、近隣建物四例に基づき比準賃料を月額一平方メートル当り二二七〇円と算定した上、本件建物部分の適正賃料を月額一五万六〇〇〇円としているが、《証拠省略》によると本件賃貸借契約成立時においては被控訴人は控訴人の一部門が独立したものであり、双方の代表者が同一人という特殊な関係にあったことが認められ、本件契約はこの特殊事情に基づいて賃料も定められたものと推認され、したがって本件における適正賃料額算出については右の特殊事情を考慮すべきところ、右鑑定においては右の考慮がされておらず、鑑定結果は合意賃料は低きに失するとして昭和四九年九月における合意賃料の約二・七八倍の額をもって相当とし、急激な増額を是認するものであるから、そのまゝ採用できない。

よって貨幣価値の下落分等を加味しさらに検討を加えるに前記鑑定の結果によれば昭和五〇年一月から同五三年一一月までの間の消費者物価指数の変動率は昭和五〇年を一〇〇とするとき昭和五三年一一月は一二四・五であることが認められ、前記合意賃料を物価指数変動率によってスライドさせると、昭和五三年一一月における賃料額は六万九七二〇円となる。

そこで以上の二方法によって得られる結果を比較し、経過年数を考慮し急激な増額となることを避けるときは、本件建物部分の昭和五三年一一月二九日現在における適正賃料は、賃料事例比較法により試算した前記一五万六〇〇〇円と昭和五〇年一月を基準としてスライドさせることにより算出された右六万九七二〇円のほぼ平均額の月額一一万二〇〇〇円と認定するのが相当である。従って右賃料は昭和五三年一一月二九日以降一か月一一万二〇〇〇円に増額されたものというべきである。

(3)  被控訴人が控訴人の右賃料増額を争っていることは弁論の全趣旨に照らし明らかであるから、控訴人が右増額賃料額の確認の利益を有することはいうをまたない。

三  よって右と趣旨を同じくする原判決は相当であって本件控訴は当審で拡張した請求を含めてこれを棄却し、当審における予備的請求を右の限度において認容し、その余を棄却し、民事訴訟法第九五条、第八九条、第九二条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 綿引末男 裁判官 田畑常彦 原島克己)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例